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金曜時評

再発防止へ監視を - 客員論説委員 小久保 忠弘

 「大和にもうまい物あり偽メニュー」。食欲の秋に、ホテルや百貨店による食材の不当表示問題が直撃している。県内の旅館等でもメニューと違う材料を使っていたことが発覚し、運営会社の社長が辞任する騒ぎになった。

 当該の近鉄系グループは県内でも実績のあるホテル・旅館を擁しており、地元の利用客も多い。顔見知りの責任者が謝罪会見で頭を下げる姿を見るのはしのびないが、観光シーズンまっただ中に詐欺まがいの行為が明るみに出た罪は重い。ことは食中毒のような事故ではなく、大がかりな偽装事件ともいえる。消費者を裏切る行為のみならず観光奈良のイメージダウンにつながるのは必至だろう。

 それにしても奈良県が誇る「大和肉鶏」や「大和野菜」の偽表示が問題になったのに県の対応は遅い。先月31日の発表から10日以上たった今月12日になって、やっと施設への立ち入り調査をするという緩慢さである。県産ブランド育成にどれだけ税金を使ってきたか、生産者がいかに努力してきたかを思えば、監督窓口として厳しく迅速に対処すべきではないか。まるで消費者庁に催促されて現場へ入ったかにも見える。

 10月下旬に、阪急阪神ホテルズが、直営ホテルなど23カ所のレストランと宴会場で7年にわたり食材を「誤表示」していたと発表して以来、後から後から問題店が出るわ出るわ。有名どころの外食企業は軒並み「偽メニュー」だったようだ。これでは最初に発表し責任者を処分したグループが立派に見える。

 以前にもあった産地偽装のように「時間がたてば忘れる」というのが大方の見込みかもしれない。だが、のど元過ぎればで終わらせてはいけない。原因はイメージ戦略に乗せられる私たちにもある。おれおれ詐欺に遭うのと同じだと言うつもりはないが、そろそろ賢い消費者に成長してもいいのではないか。

 金融機関の不正融資、メーカーの産地偽装・品質の不当表示と問題の枚挙に切りがない。いまや社会に偽装が蔓延(まんえん)している。さらに悪質なのは隠蔽(いんぺい)である。隠し事は必ずバレる。どんなに手を尽くしても内部から通報者が現れる。だから内部秘密を出したくない経営者や権力者はこれを処罰することを考える。

 偽装と隠蔽の最たるものは、政府が推し進める「特定秘密保護法案」であろう。「当該情報の保護に関し、特定秘密の指定及び取扱者の制限その他の必要な事項を定めることにより、その漏えいの防止を図る」とするが、隠蔽の家元は時の政府であったのは歴史を見れば明らか。日本新聞協会は臨時国会での法案提出を前に「政府や行政機関の運用次第で憲法が保障する取材報道の自由が制約されかねない」として強い危機感を表明している。国家の情報統制と隠蔽の結果は北朝鮮や戦前の日本の姿を見れば分かる。その国民的損害は食材偽装の比ではない。いずれにしても最悪の事態防止へ監視とチェックは怠れない。

 

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