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金曜時評

重い市長選の敗北 - 客員論説委員 小久保 忠弘

 アベノミクスの効用か、本県でも参院選で自民党候補が圧勝した。過去最高の35万票を超える得票は、陣営の予想をも大きく上回る数字であろう。後援会幹部に産業界の有力者を配し、安倍晋三首相が直接乗り込んでの選挙戦は「大差で」と勝ち方にもこだわるほどだった。「ねじれ解消」を訴えて奏功した全国の情勢と軌を一にしていた。

 一方で異様だったのは、同じ自民党県連が担った奈良市長選で明暗を分けたことだ。市長選の敗退で、せっかくの参院選大勝も喜び半分、痛しかゆしといったところだろう。

 同市長選では自民系候補の一本化ができず保守乱立の結果、現職に漁夫の利をさらわれた。勝敗は7人立候補の時点で決まっていたともいえる。

 選挙結果は、当選した仲川氏5万5000票に対し次点の森岡正宏氏3万8000票、3位の池田慎久氏2万4000票だった。森岡、池田氏の票を合わせると仲川氏を上回っていた。歴史に「もしも」は禁物というが、このような結果は選挙前から分かっていたことだ。幼児でさえ明白な単純計算ができないところに自民党県連の病弊がある。このていたらくは何としたことか。

 前回、民主の風に乗って当選した現職の仲川元庸氏は、議会と対立し、性急な「庁内改革」で職員の多くからも支持を失っていた。どうみても四面楚歌といえる不利な状況であった。だから、4月の自民党県連大会に出席して様子をうかがうような芸当も見せた。さらに逆風で落ち目の民主党など政党の支持を断り、市民派を装った。このしたたかさを見誤っていたのではないか。

 好きな人はご自由に立候補してくださいと言ったわけではなかろうが、要するに指導力がなく何もしなかったというだけのこと。不作為の罪は重い。会長はじめ県連幹部は一本化に向けてどれほどの働きをしたのか。組織政党として力量のなさ、無責任ぶりを満天下にさらしたと言ってもいい。あなた任せの民主党に劣らぬ、県連の怠慢ぶりだ。中央も憂慮したであろう、その心配は的中した。

 県議会派がそうであるように、永年にわたる県連の分裂状態は奈良名物の一つだが、大事な場面で「小異を捨て大同につく」という大人の選択ができないのは、政治家の未熟というべきだろう。

 安倍総裁が来県した今月6日、JR奈良駅西口で開かれた参院選候補応援の集会で、炎天下の街宣車の上で絶叫する首相を尻目に、日差しを避けて車のひさしの中に立つ県連会長と党政調会長の姿があった。相変わらず空気の読めない国会議員だと聴衆の冷ややかな視線に2人は気づいたかどうか。

 一部の長老支配から脱しないと自民党県連も早晩、民主党のように有権者から見放されることになろう。これから若い有能な人たちにバトンタッチができるのかどうか。老婆心ながら、選挙の感想かたがた。

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