特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

有権者が試される - 主筆 甘利 治夫

 これほどまでの乱戦になると、誰が予想したろうか。

 県都・奈良市の市長選を巡り、正式に出馬表明した人が6人。そして政権与党の自民党が、擁立を目指し、7人の争いになりそうだ。無風であることよりも、選択肢の幅が広がることは、有権者にとって歓迎すべきことでもある。

 今のところ正式に立候補を表明しているのは、現職の仲川元庸氏(37)と、新人は市議で元副議長の池田慎久氏(44)、みんなの党・日本維新の会が推薦する県議の浅川清仁氏(58)、昨年の衆院選で日本維新の会から出馬した元国土交通省職員の大野祐司氏(52)、共産党が推薦する元市議の中村篤子氏(55)、おととい8日に表明した市議の天野秀治氏(51)の6人。そして自民党が元衆院議員の森岡正宏氏(70)の擁立に向けて最終調整という。

 前回選挙で仲川氏を推薦し、初当選させた民主党は、まだ対応が決まっていない。ついこの間まで政権党だっただけに、このままでよいはずがない。昨年の衆院選で惨敗して政権の座を降りたが、政権奪還を目指すなら、政党としての存在感を示すべきだ。ましてや奈良市を含む1区では勝っているのだから、不戦敗は許されまい。

 最終的に何人になるか分からないが、これほど多く立候補予定者が出たことの意味は大きい。誰もが「なぜなのか」という思いでいる。

 多数出馬の一番の理由は、仲川市政の4年間に対する批判といえよう。しがらみのなさと若さを売り物にし、さっそうと登場した。当初から危惧されたように、議会とは摩擦ばかりで、若いがゆえの未熟さが露呈した。そして若手職員はともかく、行政を実質的に担う幹部職員との意思の疎通は欠いたままだった。

 またごみ処理場や火葬場など、市民生活にとって重要な問題について、まったく進展がみられなかった。これまで積み上げてきた過去の経緯や実績を無視して、前に進むはずもない。地域住民との信頼関係を深めるために、どこまで汗を流したか。しがらみのないことと、利害関係者との信頼関係の構築は、まったく別物ではない。周到な根回しなど、経験不足のそしりを免れない。

 こうした批判への責任は、擁立し当選させた民主党にもある。同時に行われた前回市議選は、7人全員が当選し、しかも10位以内という圧勝だった。しかしながら、市長与党としての動きは十分ではなく、若き市長への適切なアドバイスができているとはいえない。

 挑戦する新人組は、それぞれが議員歴や行政の実務経験がある。主要政党の態度が確定していないが、公党の責任で推薦や支持がなされる。それだけに、いかなる人物であるかが問われる。

 いずれも奈良市を舞台に選挙を戦ったことがあるので、無名ではない。政治姿勢とともに過去の業績をしっかり見ねばなるまい。政治家が弁舌巧みなのは当たり前だから、言葉だけのきれいごとではなく、何をしてきたか、どんな人物かをしっかり見ていきたい。

 参院選と同時になるため、市民生活と密着した地方選挙が、埋没するようなことがあってなるまい。告示まで、あと2カ月ほどだ。有権者が試される番だ。

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