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金曜時評

目指すのはどこか - 編集委員 北岡 和之

 「1票の格差」訴訟で厳しい判決が次々と出た。自民党が大勝した昨年12月の衆院選は、最大2・43倍の「1票の格差」を是正せずに実施。これは憲法違反だとして、選挙の無効を求める訴訟が全国各地で起きた。まず今月6日の東京高裁が違憲、続く7日の札幌高裁、14日の仙台高裁も違憲の判決となった。いずれも選挙無効は認めなかった。同日の名古屋高裁は違憲状態と判断した。

 平成21年の前回衆院選について、最高裁大法廷は23年3月の判決で最大格差2・30倍の区割りを違憲状態と判断した。今回の衆院選で格差が拡大していたのだから、違憲判決は当然だろう。ただ、国会での緊急是正策(「0増5減」など)があり、「漫然と放置していたとまではいえない」として、違法の宣言だけにとどめられる「事情判決の法理」が適用されて選挙の無効は避けられた。

 とはいっても、国会議員諸氏に制度の抜本的な改革への取り組みが迫られていることに変わりない。永田町も急速に動き出しているようだが、今夏の次期参院選を控えてのんびりしていられては国民が困る。法律をつくる立場の国会議員が「違憲」を是正しなければ話にならないではないか。

 憲法といえば、国会では憲法改正をめぐる論議が熱を帯びてきた。各政党によって“本当の狙い”は異なるのだろうが、まず俎上(そじょう)に上がっているのは憲法改正の手続きや公布について定めた96条。

 その前半部分には「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする」とある。強くなってきたのは「3分の2以上の賛成」とあるのを「過半数の賛成」に改正しようという動きだ。

 国際、国内情勢や社会の段階的な飛躍なども考慮すると、憲法を改めてはならないとは思わない。時代に合った憲法へと変えていくこと自体に反対する理由はない。しかし、96条はどうだろうか。改憲へのハードルを低くすることには疑問の余地なし、とは言えないのではないか。国家権力の側ではなく、国民の側につく憲法を守ってゆきたい。

 このところ、何かと神経をとがらせる出来事の多い東アジア地域の状況を見るにつけても、あらためて憲法の大切さと私たちの進むべき道といったことを考えざるを得ない。

 かつて戦争の時代に大きな影響を与えた「日本浪曼派」の中心的存在で、戦後に“復活”した桜井市出身の文芸批評家、保田與重郎は独自の「絶対平和論」を説いた。有効かどうかは別として、武力や軍備、政治や国際情勢などは第一義の問題とせず、「近代」とは全く異なる「絶対平和生活」だとする論説には耳を傾けたくなる。憲法論議も、要は揺るぎなき理念を持っているかどうかだ。

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