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金曜時評

気づき教育へ再生 - 論説委員 寺前 伊平

 子どもたちの楽しい夏休みが、きょうで半分過ぎた。海水浴、山登り、林間学校、キャンプファイヤー、ラジオ体操、肝だめし、夏祭り…。どれをとっても、子どもたちが仲良く行動した一こまである。夏休みの子どもたちの風景は、まぎれもなく2学期に向けての思い出づくりだった。

 大人たちも体験したそんな夏休みの風景とは裏腹に、いじめにおびえる子どもの姿が垣間見える。滋賀県大津市の男子中学生が自殺した問題は、教育現場に警察が踏み込まざるを得ない異常事態に発展。それ以後も県内では桜井市立中学校の女子生徒が同級生6人にいじめを受けていたことが表面化するなど、全国各地でいじめによる被害届は後を絶たない。

 3年前、文部科学省から「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」という冊子が刊行された。教育現場でのいじめが発覚する度、この冊子が教育現場で日々生かされてきているのか、はなはだ疑問を感じる。

 担任教師のいじめを受けている者への「気づき」は大きな意味を持つ。いじめに気づき、教師が機敏に対応していれば、少なくとも自殺は未然に防げたに違いない。ただ、教師に責任を丸投げすることだけは控えたい。それは、いじめの背景にいろんな要因があるからである。

 40人規模の学級を受け持つ一人の教師が、生徒と正常なコミュニケーションが果たして図れているだろうか。学校制度の問題が絡む。家庭においても、子どもの様子がおかしいと気づき、温かく子どもと接する機会があったろうか。子どもは安心できない家庭環境の中で次第に口ごもってしまうものである。

 いじめを受けた被害者の家族から警察に被害届が出されるケースが、全国的に増えてきている。警察のまずい対応を指摘する声がある一方、被害届を警察に出したからといってたやすく解決されるものでもない。

 18歳までの子どもの悩みを電話で受け付けている奈良いのちの電話協会「チャイルドラインなら」=フリーダイヤル0120(99)7777、毎週水曜日午後4〜9時=では前年度、60件のいじめに関する子どもたちの相談に応じた。

 県は潜在化するいじめ問題を直視し、9月に県内すべての中学・高校生を対象にして実施するアンケート調査の内容を踏み込んで協議中だ。さらに、桜井市での問題では、県教委が学識経験者5人からなる検証チームや「いじめ早期対応マニュアル」策定に向けたチームを設置し、初会合を開くなど具体的に動き始めた。

 県内では児童虐待も深刻化している。そういう意味で、いまこそ県内の教育者が一丸となり、まずいじめへの早期対応策を協議し、これを契機に学校が家庭、地域社会へ呼び掛け、連携していく姿勢が欠かせない。そうすることにより、子どもたちのそれぞれの価値観を引き出し、いじめにつながる要因を摘み取ってもらいたい。

 教育者にとってはこの夏、いじめの検証、再発防止の対応マニュアルづくりへと休み無しの熱い夏がしばらく続く。2学期からの教育現場で、教師一人一人の役割に期待したい。

 

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