特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

できること正直に - 編集委員 水村 勤

 8月は、原爆忌、なら燈花会、春日大社万灯籠など、祈りの行事が続く。人知を超える昨年の「3・11」東日本大震災、「9・3」台風12号豪雨の被災で多くの人々が亡くなり傷は癒えることはない。

また、福島原発事故による放射能禍は広大な地域の除染作業が残り、人々を苦しめる。原子炉本体の廃炉は手がつかず、貯蔵プールの使用済み核燃料の廃棄作業もこれからだ。

政府が各地で行う今後のエネルギー政策を一般国民から聞く意見聴取会では、発表する大半が「脱原発」を志向し、首相官邸前の脱原発デモには万を超える人々が集まる。電力確保に向けた原発再稼動は容易ではない。

 一方で、1ドルが80円を割る歴史的な円高は輸出企業へ追い打ちをかけるだけでなく、製造業の海外移転が進む。廃業に追い込まれる中小企業も続出している。中間層の給与所得の減少、有効求人倍率は「1」を割って久しく、若者の正社員採用は進まず「ワーキングプワー」の言葉が定着してしまった。

 バブル経済の崩壊後「失われた10年」は過ぎ、いまや社会の停滞は20年を超える長きとなる。景気低迷が重くのしかかる。自民党から民主党へ政権後退してほぼ3年。「国難」に対するオール・ジャパンの成熟した政治はほど遠く、与野党は衆院解散の時期を見定めながら駆け引きに終始する。本社主催の7月の記事審議委員会でも政治の動向に厳しい声が多く、特に「いまの政治家に期待できない」と失望の深さを語る声が続いた。

 ただ、委員の一人で春日大社宮司の花山院弘匡氏は「政治の閉塞(へいそく)感に対する人々の裏切られた気持ちは分からないでもないが、失望をすべて人のせいにはしたくない。それよりは、自分たちの身の丈にあった中で責任を持って行動したい」と、同大社で朝拝をする人々とともに震災や台風被害からの復興を神に祈る心情を語った。

 今国会では原子力規制委員会設置法が成立した。国のエネルギー政策の方向をどうするか、「脱原発」の世論が強い中で先送りするような見方もある。しかし、脱原発であれ原発再稼動をするにしても、経済の悪化を招かないように腐心し、福島の原発事故の膨大な後始末を、全力であたらなければならない。

 まもなく6日は広島平和記念日。「福島の復興なくして日本の復興はない」と語った野田佳彦首相は、むしろ福島第1原発でこの日を迎えることを勧めたい。原発に責任持って取り組む姿勢を見せた方がいい。

 一方、わが奈良はどうか。県都奈良市では、ごみ焼却場や火葬場の老朽化が進む。候補地が明らかになる度に地元住民らの反対で立地が進まない。現市長の仲川元庸氏の指導力ばかりをあげつらっても仕方がない。議会の協力も得ながら市民との真摯(しんし)な話し合いを重ね、理解を深めていくほかない。もちろん市として踏むべき道筋を明らかにすべきなのは、職員ではなく仲川市長である。

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