特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

まずは景気回復だ - 主筆 甘利 治夫

 24日から始まる通常国会を前に、消費税の増税に向けた動きが盛んで、「増税ありき」というのが気になる。

 先の民主党大会で代表の野田首相は、社会保障と税の一体改革を「やりきることなくして、日本と国民の将来はない」と宣言し、民意を問うことまで言及した。「一体改革」との表現はしても、増税路線一直線ということだ。これに合わせて、政権を獲得した衆院選における党のマニフェスト(政権公約)にあった比例代表の議員定数80削減案を、小選挙区の5減案とともに決めた。国民に負担を求めるが、国会議員自身も「身を切る」という形を示したものだろう。

 昨年の国難ともいえる震災への対応と、欧州の経済危機により国際情勢も緊迫している。国の財政はますます厳しさを増し、震災復興や年金、高齢者対策など、急務の課題は山積している。国の借金が増え続けるなかで、若い世代に負担を持ち越さないために、消費税の増税は「やむを得ない」という、風潮はある。

 たしかに、多くの国民は理解を示しているかに見えている。現実に高齢化が進むなかで、理屈としては理解していても、だからといって「はい、そうですか」と賛成というわけではない。

 2年半前の総選挙で、民主党は「無駄をなくせば、金はある」と声高に叫び、子ども手当や高速道路の無料化などのマニフェストを華々しく掲げて、政権交代を果たした。その後の経過はどうだったか。「バラマキ」と批判されるように、借金は大きくふくらんだ。事業仕分けも、劇場型に展開してみたものの、それほどの成果が上がったわけではない。「やっぱり金がないから消費税」では、国民も納得するわけにはいかない。

 そこで国会議員自らが「身を切る」姿勢をみせる意味で、議員歳費の引き下げや議員定数削減を出してきた。歳費引き下げは簡単だが、定数問題は民主主義の根幹に関わることで、数字合わせではない。現行の小選挙区における1票の格差是正はせねばならないが、0増5減といった小手先の改革ではなく、制度そのものにメスを入れなければ、また格差は起きる。

 比例代表の定数を大幅に減らすことは一つの考えではある。しかし、民意を正確に反映しているのが比例代表であるのも事実だ。小選挙区制度が大政党に有利であることは、当初から分かっていた。目指してきた二大政党制も、多様な民意の前には、定着していない。総定数を大幅に減らして、制度の抜本的改革をすべきではないか。

 消費税を増税するために、「自らの身を切った」形の議員定数削減という、安易な発想にみえる。

 増税論議も大切だが、なぜ税収が減ったかといえば、景気の冷え込みにある。大企業はもちろんだが、中小・零細企業の経営は限界にまできている。生活に苦しめられる国民から悲鳴が聞こえる。「国民の生活が第一」「雇用が第一」はどこへいったのか。増税によって国民をさらに苦しめるのか。

 まず景気回復に真剣に取り組んでほしい。豊かさが実感できれば、増税も理解されよう。国が豊かになれば税収も増えるのだから。

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