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金曜時評

対応の鈍さを憂う - 編集委員 松井 重宏

 奈良市の管理職2人が固定資産税の延滞金約70万円を着服したとされる事件は、8月の発覚から既に3カ月たつが、当初、市が速やかに措置するとしていた警察への被害届もまだ出されておらず、犯行の全体像は見えないままの状態が続いている。市政運営にとって重要な税金、滞納金の徴収業務を正常化するため、1日も早い全容解明、再発防止策の確立が強く望まれる。

 市民からの問い合わせで疑惑が浮上、市が事情聴取を始めたのは8月11日。その1週間後には本紙報道で事件が明るみに出たが、市の反応は鈍く、処分を公表するまでに1日半を要した。この間、2人は市に200万円ずつ計400万円を弁償。公表の遅れで2人に言い訳をつくる時間を与えた格好となり、市民から批判の声が上がった。

 一方、市は職員2人の懲戒免職を発表した時点で、確認された約70万円以外にも余罪があると判断、調査を始めたが、着服の有無を判定する第三者機関で1回目の判定作業を開いたのは先月27日になってから。当初、10月末としていた調査終了は実現せず、中間報告なども行われていない。

 同調査について仲川元庸市長は、市ガバナンス監視委員会の指示も受けながら進めていくと説明。着服が疑われるケースを過去にさかのぼって洗い出した上で対象となる市民に照会。領収書が残っていない事例などは第三者委員会で判断するという作業を積み重ねているが、長い時間がかかっているのは案件の多さを示唆するものか。

 ただシステムには平成20年度まで資料が残されておらず、2人がそろって納税課主査に就いた17年度から3年間については実態が分からず、調査は難しいという。

 また犯行は、2人が納税課主査や総務部参事といった立場を利用して行われたとみられるが、職場が変わった後の23年度にも延滞金を着服した疑いがあり、市役所内の組織自体が不正行為に対して「機能不全」を起こしていたとしか言いようがない状態。2人以外の職員が関与した可能性も含め、市の調査には限界があり、警察の捜査に委ねる対応も早期に取る必要がある。

 市民の関心が高い納税について、失われた信頼を市はどう回復するのか。何より迅速な対応が求められる中で、3カ月もの空白を生じさせたのは残念。まさか「人のうわさも七十五日」と冷却期間を取ったわけではないだろう。加えて、処分された職員2人に高い信頼を置いていたとされる仲川市長の政治能力も厳しく問われる。

 きょう11日から17日までは国税庁の「税を考える週間」。発生から8カ月を迎えた東日本大震災の復興、また高齢化社会への対応などをめぐり増税が真剣に論議されようとしている今、市民に納税の義務や負担増を求める政治家や公務員こそ、税金の意味、重さを考え直さなければならない。

 

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