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金曜時評

県民の視点忘れず - 論説委員 小久保 忠弘

 本紙は、この26日に創刊65周年を迎えた。昭和21年10月、戦後の民主主義国家出発に呼応して有志が集い呱々(ここ)の声を上げた。以来、表現の自由を守り、地域に生きる言論機関として先輩から受け継いだ「県民読者とともに歩む」精神を堅持してきた。

だが経済基盤が弱く「地方紙不毛の地」とされた県内において、本紙もまた苦難の連続であった。たびたび経営危機に見舞われ、存続が危ぶまれたのも事実であった。

そんな中で、独自の視点で奈良県言論界をリードし、「県民の利益と幸福増進に尽くす」の社是を掲げ、今日に至っている。あす29日には、奈良市内でささやかな祝賀会を開かせていただく。あらためて本紙を支えていただいた読者並びにスポンサー各位に心よりお礼を申し上げたい。

 振り返れば5年前、奈良市職員の長期有給休暇問題を報じ、10年前には県警交通部幹部の贈収賄疑惑をスクープした。さらに15年前には、県庁職員の食糧費問題を厳しく糾明した。その間にも、有力県議と暴力団との交際問題や、市長選に絡み暴力団の力を利用しようとした市長の資質などを粘り強く問うた。他にも本紙が独自に報じた記事は枚挙にいとまがない。たとえ他紙が取り上げなくとも、地方議会や議員・首長の動向は有権者の関心事として注視してきた。大きな権限を持つ機関に対しても同様である。

 これが県民の「声なき声」を代弁するという地域ジャーナリズムの原点である。地域密着は地元紙の生命線でもある。さらに「是は是、非は非」とする視点を何よりも重視してきた。であるがゆえに厳しく、時に執拗(しつよう)とさえ見られることもあった。

 今、本紙が他に先駆けて報じた奈良市議会の議長選をめぐる買収工作問題は、申し込みを受けた同僚市議が暴露する形で展開したが、既に大阪地検特捜部が捜査着手し、その結果が注目される。県庁所在地の奈良市議会は、県内39市町村議会の模範でなければならない。選挙で選ばれた住民代表が論議を交わすべき議会が、一部の人間の牛耳じる議会であっていいのかどうか。不祥事の根は当事者が断たなくてはなるまい。司直の判断を待つまでもなく、百条委員会などの調査委員会を開いて自浄作用を発揮すべき時ではないか。

 県内事情を見ると、豊かな自然と文化遺産をどのように次世代に引き継いでゆけるか、農林業の健全な発展や地場産業育成・経済の活性化など大きな課題が山積している。また震災・水害など大災害に際して、住民はどのように身を守ることができるかなど、克服すべき課題がある。私たちは誰もが住みやすく誇りの持てる県を目指して、ペンの手を緩めてはならない。

 創刊65周年にあたり、さらに一剣を磨き、長蛇を逸することのないよう奮闘したい。

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