注目記事山下県政 世論調査の全結果掲載

金曜時評

有事にどう備える - 論説委員 小久保 忠弘

 大震災や台風被害で塗炭の苦しみに遭っている住民がいる。当該の自治体は行政や議会挙げて対応に奔走し、救援と復旧に当たっているのは周知の通りだ。県南部では台風12号による豪雨で死者・行方不明24人、流失・水没家屋多数という被害が出ている。今にも決壊が心配される土砂ダムや家をなくして避難所で生活する人たちがおり、一部で停電、通行止めも続いている。行方不明者の救助・捜索、孤立集落へのライフライン確保など当該の市町村は筆舌に尽くし難い辛酸をなめているところだ。

その一方で、議長選をめぐる買収工作が発覚し、前議長が辞職するなど醜い姿をさらしている奈良市のような例もある。15日には大阪地検特捜部が市議会など関係先を家宅捜索した。事態は司直の手に移ろうとしているが、まことに嘆かわしい限りだ。

 これまでの報道で明らかになった買収工作の生々しい実態は、同僚議員に議長選での投票を依頼し、見返りに金品やポストを提供するという「買収の申し込み」。さすがに申し込まれた議員は驚いて公表した。それが「コメ5年分」であれ、「肉」や「ポスト」であれ議員にとっては失礼極まりない話で、侮辱されたと思うのも当然だろう。

 6月24日の議長選は、最大会派の政翔会に反発する各派プラス無所属議員の連合が推す候補と、政翔会が独自候補を出した公明党に乗る一騎打ちとなったが、結果は同数となり、くじ引きで現議長が選ばれた経緯がある。拮抗(きっこう)していただけに貴重な1票をめぐって激しい動きがあったようだ。

 これまで報道された執拗(しつよう)な働き掛けを見る限り、奈良市では議長など議会ポストが利権につながり、会派の影響力を行使できる温床となっていたのだろうか。この際、徹底的にウミを出し切る必要があろう。

 およそ選挙で議員が選ばれる民主社会で、しかも人口37万人の中核市であり、県庁所在地の市議会にあるまじきひどさと言うほかない。

 その奈良市では先月、定年間近の幹部職員2人が市税の延滞金を着服したとして懲戒免職処分を受けた。2人は納付書を偽造し滞納管理システムを操作して「いつからか記憶にないほど」長期にわたり不正を働いていたという。発表の前に400万円を弁償したものの、いまだに刑事責任を問われたという話は聞かない。よほど身内に甘い体質がしみついているのだろう。

 昨年は遷都1300年祭でにぎわい、全国に古都奈良の存在をアピールした奈良市だが、いまや不正と不祥事のニュースの古里として名を売っている。市民の1人としても恥ずかしい限りだが、監視を怠る市民にもその責任の一端はあろう。

 被災各地の惨状をみるにつけ基礎自治体の役割は大きい。災害や突発の有事の際に首長、議会、市民が一体となって事に当たれるのかどうか。奈良市民が負うべき十字架は重い。

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