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金曜時評

なぜ代表選に血道 - 主筆 甘利 治夫

 それほどまでに、名前を売りたいのかと思う。馬淵澄夫衆院議員(県1区)の「権力欲」に燃えたとしかみえぬ、最近の動向が気になる。

 本来なら、「県初の総理誕生か」と、県民とともに大いに期待したいが、国難といえる震災と原発事故、そして世界経済の危機的情勢のなかで、この今の日本をまかせるリーダーに、馬淵氏がふさわしいのかどうか。

 この2年間の動向、そして最近の言動をみれば、あまりにも権力志向が顕著だ。「総理大臣になりたかった」という、菅直人首相と同じではないか。

 国民からも与党内からも信頼を失っている菅首相は、赤字国債発行法案成立などの見通しがたったことで、ようやく退陣の道筋が整った。このため民主党内は、「ポスト菅」に向けた党代表選の動きが本格化する。

 ところが馬淵氏は、誰よりも早く出馬の意思を表明し、精力的に動いてきた。通常の場合なら、それもいい。自らがどんな立場にいたのか、そのことを忘れ、権力への執念執着が露骨にみえるから、不快感が先に立つ。

 東日本大震災が3月に発生。その直後に、菅首相から震災・原発担当首相補佐官に任命された。重要なポストであることは誰にも分かる。それだけ信頼され、能力を期待されたもので県民も誇りに思う。その重要なポストにありながら、日々、何をしてきたのかは不明だ。本紙の取材にも答えない。

 原発担当でありながら、震災発生から3カ月目にやっと福島原発を視察した。しかも、同行記者に次期党代表選出馬への意欲を示した。これには遠い奈良の地にあって、震災・原発に対する馬淵氏の真剣さ、本気度を疑った。

 案の定、その半月後に補佐官を“解任”された。「被災者のために経産副大臣を」との打診も蹴ったという。もっともらしい理由を語っているが、なぜ継続して、被災者のために全魂を傾けようとしないのか。それが政治家と思う。

 補佐官の首を切られた形になるや、今度は自身のブログや講演で、政府の震災対応の批判を開始した。馬淵氏は「政府」の震災・原発担当の当事者だった。まさに「天に唾する」行為だ。今や国民全体を不安に陥れている放射能汚染。稲ワラを食した肉牛の出荷停止問題も、初期対応で防げなかったか。

 わずか4カ月の国土交通大臣、そして3カ月の首相補佐官と、いずれも「首切り」のような形での退任だ。そのことが、逆に権力志向になったのか。

 昨年6月の党代表選で、菅氏と小沢一郎氏が争った。馬淵氏は「代表選での演説を聞いて決める」とし、答えは菅氏がふさわしいとなった。その馬淵氏が、今度は小沢氏に擦り寄っている。1年前の小沢氏は駄目で、今の小沢氏はよいという理屈か。

 幹事長などの三役経験もなく、当選3回の馬淵氏の行動に、党内は冷ややかだ。代表選挙に必要な推薦人は20人だが、どこの派閥にも属していないため、「推薦人さえ集まるかどうか」といった声もある。

 本気で「総理の座」を狙うのではなく、「次の次」とか、将来への布石として、名前を売ることが目的に見えるから、代表選に血道をあげる馬淵氏に賛成できない。

 震災・原発対応の当事者でなくなったら、被災者のことはもういいのか。政府批判の論文にしても、メディアに登場しての政府批判も、違和感がある。まずは政府の一員として、自身がしてきたことの反省が先ではないか。政治家の良心として被災地行脚も必要だ。代表選どころではない。

 そして県1区選出の衆院議員として、あまりにも地元を軽視していないか。国会議員だから、国家全体のことを考えて当然だが、地元があっての代議士だ。党のこともそうだ。先の県議選では、選挙区内の現職2人を落とすという惨敗。その選挙に関わった本人なのに、責任はとらない。

 いずれにしても、発案者として吹聴していた「高速道路の無料化」も撤回する事態になった今、この2年を内省すべき時だ。代表選どころではない。

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