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金曜時評

実感したパニック - 編集委員 北岡 和之

 自分がかなり過敏になっているな、と感じた。もちろん、東日本大震災や福島原発事故に関する情報に接し続けていることで起きている反応だと思うが、影響は小さくない。

 14日朝、近鉄奈良線・大阪上本町駅の線路上で煙が出ていたという。駅職員が消火器で消し止め、いわば小さな事故だった。

 ところが、である。この日たまたま近鉄奈良駅の構内にいた当方は“小さなパニック”を体験した。午後0時半ごろ、本社に戻るためにホームに向かったのだが、地下1階の奈良駅を出る電車の時刻などを表示する案内板にデジタルの文字がない。駅員に聞くと、いつ、どの方面の電車が出るのか分からないという。「放送でお知らせしますから」というので待っていたが、何も放送しない。

 もう1階下へ下りて、見かけた電車に乗り込んで少ししたら、別のホームの電車が先に出るらしいとの情報。「間もなく発車します」との放送があって、走って電車に向かった。だが、このホームの案内表示とは時間も違っていた。あらためて駅員に聞くと「申し訳ありません。私にもよく分からない」という返事で、ぶぜんとするしかなかった。

 とりたてて近鉄に苦情を言いたいわけではない。ただ、日常というものが小さな事故からでも損傷を受けることの実体験として書きとめておくべきだと考えた。電車の運行という、精密にシステム化されているはずだと思っていることが、容易に亀裂が入るものだと分かった。毎日、ほぼ時刻通りにやって来ては乗せて行ってくれる電車を利用している者にとって、時刻通りに動かないとか、いつ動くか分からない、というのは相当大きな出来事と言っていいと思う。

 冒頭でも書いたように、東日本大震災と福島原発事故で、当方の神経が過敏になっているのだろう。それでも、ささいに見えるかもしれない出来事から日常が破損することを、よくよく心にとめておきたい。近鉄に対しては、事故でダイヤが乱れることは当然としても、乗りたい電車がいつごろ動くのかを、駅でもう少し的確に案内できるようになってほしいと願う。福島原発事故と比べるのはどうかと思うが、今回当方が体験したことは、本質的には同じではないか。

 福島原発事故に少し触れれば、放射能汚染や電力面などで原子力について誰もがあらためて考えることになった。そこで思うのは、昭和20年にわが国の広島、長崎両市に落とされた原子爆弾のことだ。あの被爆について、わが国民は世界に訴え続けねばならない。そして「原発の怖さ」を声高に言うなら、まずは原爆保有国が原爆の全廃へと進むべきだと呼び掛け続けねばならない。

 統一地方選挙の前半戦(知事選、県議選)が終わり、今月24日には市長・市議選、町村長・町村議選の投開票で幕を閉じる。それぞれの選挙当選者が、どんな羅針盤を持っているかは、これから明らかになる。

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