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伝える喜び これからも - 奈良発署名10万人・障害者の意思伝達装置

2011年1月30日 奈良新聞

レッツ・チャットを操作する池原久豊さん(手前)と母の恵子さん=奈良市内

 意思伝達装置という福祉機器がある。さまざまな障害のため、思いや考えを伝えることができない人が言葉を紡ぐための装置だ。だが、販売台数は一般の電気製品に比べて少なく、採算ベースには乗りにくい。昨年、この装置の一つである「レッツ・チャット」が生産中止の危機に陥ったが、継続が決定。企業に「思いを伝える装置」の重要性を伝えたのは、脳性まひの息子を持つ奈良市の母親が始めた10万人を超す署名だった。

 「ぼくをうんでくれてありがとうネ」。

 県立奈良養護学校高等部の卒業直前に「レッツ・チャット」と出合った池原久豊さん(25)=奈良市=は、装置を使いこなせるようになったある日、母恵子さん(58)に向けてこうつづった。

 「こんなことを思ってくれていたんだ、とびっくりして涙が出ました」と恵子さん。「レッツ・チャットがなければ、息子の心の中の言葉を聞くことはできなかった」

 久豊さんは今、この装置で家族や福祉作業所のスタッフらと会話。レッツ・チャットは久豊さんにとって、かけがえのないものになっている。

 レッツ・チャットは50音表から、ユーザーが自分で動かせる部分でスイッチを操作して文字を選び、言葉をつづる装置。音声ガイドもあり、視覚障害の人も使える。

 パナソニック(大阪府門真市)の社内ベンチャー会社「ファンコム」の松尾光晴社長(当時)が開発し、平成15年に発売。これまでに約2200台が売れた。現行機種は1台12万円。状況に応じて行政からの補助も出る。

 同種の装置はほかにもあるがレッツ・チャットは、スイッチを入れるとすぐ使える▽パソコンではないのでフリーズしない─などの扱いやすさと、購入時の調整や故障時の対応など、きめ細かいユーザー支援体制で多くの支持を得てきた。

 会話機能に特化したシンプルさはまた、障害の重い人の意思伝達も画期的に広げた。奈良市出身のジャーナリスト、柳原三佳さんは、著書「巻子の言霊」(講談社)で、交通事故で全身まひとなった妻のかすかなまばたきを夫が読み取ってスイッチを操作し、一時は不可能と思われたコミュニケーションを取り戻した夫婦の姿を紹介している。

 ところが昨年6月末、ファンコムが解散。これを知った恵子さんは昨年8月末、製造・販売と支援体制の継続を求める署名を開始した。

 口コミで始めた署名活動は特別支援学校教員で多くの著書のある山元加津子さん(石川県)のブログなどを通じて全国に広がり、約1カ月で10万1244人分が集まった。

 そして、恵子さんが署名をパナソニック社長あてに送付する直前の9月21日、同社は愛媛県にある別の子会社に開発を引き継ぎ、今春、後継機種を発売することを発表した。

 懸案の支援体制についても昨年末、この子会社から恵子さんに「これまで以上の体制を構築したい」との連絡があったが、新体制の本格始動はこれから。

 多様な条件のユーザーが今後も思いを伝え続けるには、1人1人と向き合う支援が欠かせない。「これまで通りの支援体制の継続を」。恵子さんらユーザーの心からの願いだ。

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