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独善からの脱却を - 編集委員 松井 重宏

2010年8月6日 奈良新聞

 広島原爆忌に合わせ、きょう奈良市役所で行われる「平和の鐘」行事に市のトップ、仲川元庸市長が欠席する。今週初めに同問題が表面化、市民の間からは行事にぜひ出席してほしいと要望が相次いだが、仲川市長はきのう、その声を振り切って姉妹都市訪問のため福島県へ旅立った。

 就任から1年。行政職員や議員の経験を持たないフレッシュさと若さが有権者の支持を集めて当選した仲川市長だが、それは裏を返せば経験不足と人脈のなさが懸念される船出でもあった。だから「ガム事件」や「赤色ネクタイ事件」など社会人としての常識が問われる稚拙な不良行為があっても、本人が反省し改善を示すことで市民は「市長の成長」を見守ってきた。ところが仲川市長は今回、平和行事への参加を優先させるよう求める指摘を受けて、昨年来県した福島県郡山市の親善使節団に対する答礼で、既に決まっているスケジュールの変更は困難などと説明。関係者との「しがらみ」を優先して「市民の声」を無視した姿勢には驚かされた。

 仲川市政については、本紙で「独善・迷走の1年」と題した連載が継続中のため、詳しい総括は記事に譲るが、市民に聞くと事業仕分けなどに一定の評価が寄せられる半面、地域の将来ビジョンが見えないと指摘する意見が多いことは見逃せない。

 財政再建が急務となる中、行政の無駄をなくす取り組みは誰でも口にするが、右肩下がりの時代に節約だけでは展望が開けないのも事実。予算の制約を受けつつ、その中で次につながる事業を工夫することこそ政治家に期待される知恵だ。特に奈良市は平城遷都1300年祭が全国的な注目を集めており、地域振興を図るまたとない機会。今を逃せば将来に大きな禍根を残すことになる。

 そうした大切な時期に誕生した「若い素人市長」には、掲げたマニフェストの推進にばかり目を奪われず、自分に欠けている部分や不得手な分野があることもよく自覚、衆知を集めて行政に当たる素直さを求めたいのに「独善・迷走」ではどうにもならない。

 奈良市は人口36万5344人を抱える県内唯一の中核市だが、経済や文化活動の面で隣接する大都市・大阪への依存度が高く、求心力は意外なほど低い。また中心市街地に替わって消費流出をつなぎ止める郊外の大型商業施設も「イオンモール大和郡山」が大和郡山市下三橋、「イオン奈良登美ケ丘ショッピングセンター」が生駒市鹿畑町、「イオン高の原ショッピングセンター」が木津川市相楽台と市外包囲網の真ん中に取り残されているのが現状。遊園地や映画館などレジャー施設の相次ぐ閉鎖で都市の魅力低下も覆いようがなく、財政基盤の強化につなげる産業育成、企業誘致と併せ、早急に手を打つ必要がある。

 確かな将来ビジョンづくりと、実現に向けた地道な取り組みへ。就任2年目を迎える仲川市長に課せられた課題は重い。

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