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金曜時評

原点からの論議を - 編集委員 北岡 和之

 「平城遷都1300年記念事業を迎えるにあたり、多くの観光客を迎える国際文化観光都市として、ハード・ソフト両面での基盤整備を行い、国内外からの積極的な集客を図ることは、今後の奈良市の活性化・自立化につながる重要な施策であると考える」。奈良市都市経営戦略会議(杉江雅彦委員長、11人)が冒頭でこう訴え、藤原昭前奈良市長に「平城遷都1300年記念事業に向けての『文化観光集客都市づくり』について」を提言したのは平成19年11月だった。趣旨はいいと思えた。

提言が具体的施策の一つに挙げたのは「宿泊観光の推進」で、「ホテルの誘致や長期滞在型施設への誘導」が必要とした。だが、このまちづくり構想の一翼を担うJR奈良駅周辺整備事業は、ホテル誘致計画の頓挫などで大きく後退を余儀なくされた。

 ホテル誘致計画そのものが不安要素を抱えたままでの立ち上げだったこともあるが、その後の展開は迷路に入り込んでいくような不可解な経緯をたどった。

 節目になったのは昨年1月、実現の見通しがはっきりしないままホテル建設を進めた藤原前市長が、JR奈良駅前ホテル開発に対する、ホテル用地に埋まっていた産業廃棄物(石炭ガラ)を撤去するための補償費支払いに合意したことだった。これを疑問視した市議会からは当然ながら「産業廃棄物処理は工事に伴う問題。当然、業者の責任で行うべきでないか。それが、いつの間にか協定書の中で産廃処理を市の負担にしてしまった。その責任は誰にあるのか。そこまで市がサービスする必要はない」(昨年3月24日付本紙、松石聖一議員)という声が上がった。

 だが“いつの間にか”、議会側は補償費支払いを前提とした減額修正へと傾いていった。これを巻き戻したのが、今月の定例市議会。15日の議会本会議で本年度一般会計補正予算案から石炭ガラ処理費(補償費)1億6500万円を差し引いた、議員提案による補正予算減額修正案が可決されたのは、議会側が原点に戻ったということだ。

 修正案に反対した共産、民主両党議員の言い分は「市に瑕疵(かし)担保責任があり」ということらしいが、いまひとつ分かりにくい。市民に対し、もっと明快な説明をすべきだ。そうでないと、市民からは不可解な“変節”としか受け取られないだろう。

 この問題について、恐らく十分に検討してこなかったであろう仲川元庸市長は、政治家としての決断を迫られる事態に直面していることをよくよく理解すべきだ。共産、民主両党議員と同様に市に瑕疵担保責任があるとするのか、補正予算修正案のように補償費としての石炭ガラ処理費は認めないとするのか、正念場であり、仲川市長の判断を聞きたい。

 原点へ戻り、理事者と議会がもう一度経緯を振り返って道をたどり直すことだ。そしてあらためて、まちづくり構想の中でのJR奈良駅周辺整備の方向を見いだすことだ。

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