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金曜時評

町家の有効利用を - 編集委員 水村 勤

 奈良市の中心市街地は、JR奈良駅と近鉄奈良駅周辺にある旧市街の商店街などからなるが、その動向が見逃せない。特に餅飯殿商店街の運営で起業家が支援する施設「もちいどの夢キューブ」には、全国の商店街が注目し見学者が絶えない。一方で今年1月、この商店街に近い三条通の映画館「シネマデプト友楽」の閉館は、中心市街地の“明暗”を分ける話題となった。

 友楽は70年近い年月にわたって中心市街地の核施設としてあり、県北部の多くの映画ファンに娯楽を提供し周辺商店街の繁栄に貢献してきた。閉館については、シネマコンプレックスの乱立やDVDの普及などが背景としてあるが、商店街自身についても日常の買い回り客だけでは経営が立ち行かない、厳しい商業環境を物語っている。

 そんな中で、印刷会社事務所を店舗に改造した平城遷都1300年祭のキャラクターショップが連日にぎわったり、手作りの食品販売や、和風の小物や工芸、土産物品を販売する店舗が増え、土曜・日曜は「ならまち」へ行く観光客らがにぎわい、商店街の風景は徐々に変化してきている。

 しかし、先行きは楽観できない。中小企業診断士の梅屋則夫さんの見方は厳しい。中心市街地の昼間人口が減っている。企業の営業所の統廃合が続き、ビルの空き室が埋まらない。「買い回り品のニーズが減り、顧客の商品選択もシビアだ。成功している店舗のように地元半分、観光客半分の商売を意識し、地元客が自分用やギフト用に買うような、質の高い商品を開発してほしい」と注文する。

 もう一つ、中心市街地の大きな課題に町家の再利用がある。特に「ならまち」は、老朽化した町家が多い。地元に生まれて長年暮らしてきた林啓文ならまち振興財団専務理事によると、空き家が60数軒あるという。「住みたい」「店を持ちたい」というニーズがあるのに、実際に再活用される物件は圧倒的に少ない。いきおい、町の歴史を刻み“景観”そのものであった、大切な町家は取り壊され、駐車場に様変わりしてしまう。家主だけを責められない。幸い奈良市も新年度、町家の有効利用について調査に乗り出す。

 奈良もちいどのセンター街協同組合専務理事の魚谷和良さんは「街づくり会社」を提案する。街づくりを戦略的に考え、町家を抱えて困っている家主の相談に乗り、町家の利用を希望する人との橋渡しをする。商店街の出店もナショナルブランドをそのまま受け入れるのではなく、奈良らしいものに調整する役割だ。

 こうした課題に折り合いをつけ、住民や商売人ら関係者が結束して「街づくり」を進める“場”や、熱意を持って調整に当たる人材をどう確保していったらよいのか。

 関係する多くの人々による話し合いに、行政も真摯(しんし)に加わり、「街づくり」の合意形成に努力すべきであろう。

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