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金曜時評

許すな背徳のメス - 編集委員 辻 恵介

 読者の多くはお気づきではないかもしれないが、休刊日をはさんだ先週1週間の本紙社会面のトップ記事は連日、大和郡山市の医療法人雄山会「山本病院」(解散)を舞台にした入院患者死亡事件の報道だった。

 その事件は経験のない肝臓手術を行い、男性入院患者を失血死させたとして6日、同病院の元理事長で医師、山本文夫容疑者(52)と元医局長で医師、塚本泰彦容疑者(52)が県警捜査1課などに逮捕されたというものだった。

 主な見出しを並べてみると「肝臓手術で患者死亡。未経験で執刀」(7日付)、「指示 逆らえなかった。『肝臓もうかる』と元理事長。がん診断、故意か」(9日付)、「高額検査繰り返す。診療報酬目当てか。『ノルマ』と元看護師」(10日付)、「専門外手術『どんどん』。元理事長、複数回執刀」(11日付)、「背中側腫瘍(しゅよう)を腹側から。不適切な手術。出血後『飲みに(行く)』(12日付)となり、これだけでも事件の概要が分かる。

 そして、13日付では「利益第一、命が犠牲に。専門外手術で運転資金工面。元理事長、独善経営」という見出しで、一連の事件の流れがまとめられている。次から次へと出てくる山本容疑者の行動は、医師・理事長という立場を利用して結果的に人の命をもてあそんだ、あくなき算術の追求にしか見えない。

 当時の検査医師ら複数の病院関係者は、良性の肝血管腫と診断していたという(研修医でも良性と分かるレベル)。患者もまた「切られるのが嫌なので先生に薬で、とお願いしたけど、手術しかないと言われた」と日記に残しているように、手術は避けたいとの認識だった。そこを立場を利用して周囲を強引に言いくるめた山本容疑者が、診療報酬目当てに手術を強行したと見られている。

 その上、難易度が極めて高い肝臓手術に輸血の準備もせず、未経験者だけで摘出手術を行い、背中側の腫瘍を反対の腹側から切除し、大量出血後は「飲みに行く」と言って姿を消すなど極めて不適切な対応を続けた。さらに手術後は容体の急変も想定し、執刀医は緊急連絡がとれる態勢をとるものだが、夕方に戻るまで連絡がとれなかったという。意図的に連絡を絶っていたとも考えられ、医師としての職業倫理など消えうせている。

 そもそも山本容疑者は、平成21年7月1日に生活保護患者への架空手術で診療報酬を詐取したとして、詐欺容疑で県警に逮捕された(懲役2年6月の実刑判決を受け控訴中)。「生活保護受給者の医療費は全額公費で負担される」という扶助制度を悪用したもので、こうした事件の再発防止に向けて厚生労働省は、自治体に対して受給者への医療費通知書の配布徹底を求める通達を検討中という。

 山本容疑者のような、聴診器の代わりにソロバンを首からぶら下げたような輩が二度と出てこないように、さまざまな制度の不備には早急にメスを入れてもらいたい。

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