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志のバトンつなげ - 編集委員 水村 勤

2009年12月18日 奈良新聞

 米国大手の証券会社、リーマン・ブラザーズの経営破たんから2度目の冬を迎えた。低迷する消費、内需の不振。雇用環境も明るくならない。世界不況が続き先行きも読めない中では、企業は「存続」を大義として人件費の抑制圧力を強める。障害者の雇用拡大も逆風か。進まないのではないか。そんな懸念を払しょくするかもしれないプロジェクトが本県で生まれようとしている。

 昨年6月に障害者団体などが立ち上がり、NPO法人県社会就労事業振興センター(はたらくネット)=奈良市=が結成された。「工賃倍増計画」のプロジェクトに、県内の中小企業経営者らが参画する県中小企業家同友会(以下、県同友会)=奈良市=が加わり、授産所の手掛けるクッキーなどの商品をブランド化して大量販売の実現へ模索が進む。

 授産所の製品は手作りで味わいはよいのであるが、小規模で不ぞろいのものも。販路も限られ、事業としての発展が阻まれている。そこに企業家の視点が加わり、商品としての条件を整えてブランド化。販売を拡大し授産所で働く人々の工賃を飛躍的に引き上げよう―という、野心的なプロジェクトなのだ。

 近畿まほろば総体が開かれた8月、県内15の授産所が分担してクッキー3000個を作り、会場や支援する宿泊施設などで販売した。「はたらくネット」の中山恵子事務局長によると、今度は目前の平城遷都1300年祭をターゲットにスイーツに挑戦する。商品開発は数カ所の授産所の若手指導者があたっており、お祭りが本格化する春までに生産・販売を間に合わせる計画。「ロングラン商品を」というのが参画する人たちの願いだ。

 ヒットすれば、授産所の事業が変わる。工賃の薄い内職的な仕事だけでなく、利益の大きい業務を抱えることになる。しかし、市場に出回る多くの企業商品に対抗するには、数々のハードルを越えなければならない。

 県同友会の伊藤真理事務局長は「『障害者が作っているから買ってあげよう』というような人間の一面の心理に頼ってはいけない。商品自身の強みをどう備えるか、情報共有の大切さを感じる」と話す。

 プロジェクトには参画していないが、機能性繊維製品の製造・販売で独自の基盤を築く田原本町の吉川卓伸ラック産業社長は「当社の障害者雇用率は20%ぐらい。商品力は一歩も譲らない。商品は消費者が選ぶもの。幸いに手作りの面など労働集約的な面で、他の事業所に比べて障害者の働く場が多いが、本人の適性を見ながら生かすのが経営者の役割」と語り、障害者の雇用を拡大してきた熱意の一方で、企業経営の厳しさをのぞかせる。

 「はたらくネット」がコーディネーター役となって始まったスイーツのプロジェクト。だが、事業として大きな成果を導くには、地域社会の発展と、人間を大事にする志を持つ企業経営者や専門家ら多くの人々の支援が不可欠。たくさんの知恵が結集することを願う。

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