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金曜時評

古里けがすなかれ - 編集委員 水村 勤

 ここに高取町史がある。平成4年の改定復刻版だが、連綿と伝えられているのは高取町の豊かな歴史と文化、それを形づくってきた先人たちの足跡が尊敬の念とともに読む者の心に伝わってくる。

 中でも、江戸時代の人、和州清九郎の事跡は、清貧に身を置きながらも母親への孝行や信仰を深める慎ましい生活を紹介しており目を引く。清九郎は盗みの被害を受けても「私も凡夫で盗みかねないけれど、いまは御慈悲で盗み心も起こらず、かえって盗まれる身がありがたい」などと言ったという。

 近世、高取町が城下町として発展しながらも武士階級ばかりでなく庶民の物語として広く伝えられ、町の豊かさに触れる思いでもある。その高取町にふさわしくない出来事が、植村家忠町長が自ら関与しているとされる町土地開発公社の不明朗な土地売却問題だ。今年4月に明るみとなった。

 最大の疑問点は、平成7年に福祉施設の建設用地として約8000平方メートルの土地を約4億1500万円で購入したのにもかかわらず今年春、購入額の10分の1以下の4053万円で売却しようとした。相手は町長と関係の深い医療法人中川会である。

 こうした事実が明るみになると、今度は売却面積を約24%減らしながら当初より2000万円ほど上乗せの6001万円で売買契約を締結した。しかも、問題の土地は奈良地裁葛城支部の仮差し押さえを受けた係争中のものでもある。

 同公社理事会の運営は理事長である植村町長が中心にあり、複数理事のうち4人は取材記者に「ノーコメント」を繰り返す町職員だ。残る町議3人がどこまで公平な立場で職責を果たしていけるのか。もちろん、理事本来の資格要件は適法なのであろうが…。

 しかしながら先月、同公社の理事の変更が未登記のまま半年間も放置されていることが分かった。しかも、任期切れの理事がそのまま職務を執行するなど、脱法行為が続く。

 これはどういうことか。町政の最高責任者として「是」と「非」をはっきりと示さねばなるまい。

 ところで、植村町長の先祖・家政公は、寛永17(1640)年に旗本から大名となった初代高取藩主。藩は明治まで続く。ご先祖が今日の事態を目の当たりにしたら、何と嘆くであろうか。

 疑惑の植村町長がかみしめる言葉にはもったいないが、江戸中期の名君・上杉鷹山公の「伝国の辞」はどうか。「国家は先祖より子孫に伝え候(そうろう)国家にして、我私すべきものにはこれなく候」(一部)。由来を紹介する紙幅がないのが残念だが、高取町は小なりといえども、地方の「国家」(政府)である。町史の実質的な結びには、日本を代表する同町出身の俳人・阿波野青畝のふるさとを思う句が並ぶ。

 ふるさとをけがしてはならない。

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