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金曜時評

短絡思考に陥るな - 編集委員 松井 重宏

 週明けの7日に開会する奈良市議会の9月定例会で仲川元庸市長が所信表明を予定、いよいよ新市政が本格的に動き出す。7月12日の当選から50日あまり、就任から数えても既に1カ月がたった。30歳代の若い新人市長にとっても必要な準備は整ったころ。藤原前市政の総括と現状分析、そして今後の展望について何を語るのか。注目を集める。

 ただ、仲川市長が定例会に提出を予定する議案では一般会計補正予算案を含めて、まだ独自色を前面に押し出した内容にはなっていない。というより厳しい財政状況の中で、新たな政策を打ち出すだけの余裕がないのが実情だろう。

 そこで先行するのが予算の確保。その一つとして仲川市長は「事業仕分け」を11月中旬に行う方針を発表した。あまり聞き慣れない用語だが、市民ら外部委員が行政の公共サービスについて必要性や実施方法を検証し、事業の廃止や改善、継続を決めて区分けする作業を指す。

 大阪市など複数の自治体で既に取り組まれており、政策シンクタンク「構想日本」に作業のコーディネートを委託、一般公募の市民も加えて行政の無駄を洗い出すことで新たな政策に充てる予算の余剰を確保する。マニフェストでは「前例踏襲で続けてきたすべての事業」をゼロベースで見直すことで「2009年度一般会計予算額1236億円の3%にあたる37億円の政策予算を生み出します」と言う。

 ただ、こうした手法は市民に見えやすく、分かりやすい半面、短絡的な施策に陥りやすい危うさがある。行政に市民の視点を取り入れることは大切だが、総合的な判断や中長期的な対応をおろそかにしない工夫も欠かせない。また高い支持率を背景に、勢いで突き進んだ「小泉改革」の弊害から学ぶべきものは、地方政治でも多いはずだ。

 例えば、巨額の無駄が発生する談合問題で奈良市は先日、落札業者に損害賠償請求を行うと同時に、201社を指名停止にする大量処分を実施したが、事業の質を確保しつつ談合の根を絶つには地道な取り組みがいる。

 そうした行政能力を保つため、地方自治体には議会が備わっている。1人だけが選ばれる市長と複数が選出される議会との違い、役割分担を踏まえた政策決定のプロセスを軽視してはいけない。

 仲川市長が当選して以降、国内の政治を巡る状況は大きく変化した。衆院選で民主党が大勝を収め、政権交代が実現。仲川市長にとっては、同党内で頭角を現しつつある馬淵澄夫氏が大きな後ろ盾となるだろう。それでも仲川市長には、決して独善に陥ってほしくないし、もちろん行き詰まってほしくもない。

 不得手な分野、前市政が残した問題などとも正面から向き合い、議会と緊張感のある良好な関係、意思疎通を積極的に図りながら奈良市政を進めていってほしい。

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